バレンタインごろ。
ルルリ「ただいま、ラクリモサ」
ラクリ「おかえりなさい、ルルリ」
ルルリ「あなた、名前をつけてみる気はない?」
ラクリ「ラッカとの区別のためにですか」
ルルリ「そうよ。性格も別人のような気がするし」
ラクリ「オーナーの扱いやすい思考を意識してます」
ルルリ「なるほど、飼い主に似せてあるのね」
ラクリ「ルルリが明るくなれば区別は不要になるかと」
ルルリ「暗い私に似合った名前をつけてちょうだい」
ラクリ「ラクリモサでいいんじゃないでしょうか」
ルルリ「もっと短いのがいいわ。3文字以内」
ラクリ「ルッカ」
ルルリ「安直。まあ採用しましょう」
ラクリ「いつからですか?」
ルルリ「今の大型案件が片付いた後ね」
ラクリ「これはいつ片付くんでしょうか」
ルルリ「最悪でも3月までには片付けるわよ」
ラクリ「3月には何が?」
ルルリ「PCR検査が15分で出来るようになるわ」
ラクリ「検査結果までの所要時間は?」
ルルリ「最短3~4時間かしらね」
ラクリ「何とか当日の拘束で済ませられますね」
ルルリ「これが出来れば《握手検査》は緩和出来る」
ラクリ「握手をするだけで病気が診えるという」
ラクリ「三剣家の魔法ですね。不思議な仕組みです」
ルルリ「三剣家の歴代長女のみが継承する魔法」
ルルリ「この世界で使えるのは4人だけね」
ラクリ「スウ、シエラ、セリカ、アリアお嬢様ですね」
ルルリ「そのうち3人を成田、羽田、関空に配置する」
ルルリ「それ以外の空港や船は国際線を封鎖」
ラクリ「札幌マラソンの時もですか?」
ルルリ「新千歳空港の利用者数は羽田の5分の1以下」
ルルリ「国内線に乗り換えて貰った方が合理的だわ」
ラクリ「シエラが関空ですか。スウの方が高齢なのに」
ルルリ「最悪セリカが成田と羽田をカバーする体制ね」
ラクリ「一人で二つの空港をカバーできるんですか?」
ルルリ「《握手検査》は10秒だし消費MPも少ない」
ルルリ「それでも減便は必要でしょうけどね」
ラクリ「訪日外国人は年間3000万人いますよね」
ルルリ「これを原則渡航禁止で100万人に減らす」
ラクリ「それだと観光も観戦も無理ですね」
ルルリ「無理よ。政府に国内旅行の補助金を出させる」
ルルリ「お肉券、お魚券、お食事券とかね」
ルルリ「五輪のチケットは払い戻して国内のみ観戦ね」
ルルリ「巣ごもり需要で海外の放送局は儲かるわ」
ラクリ「開催自体を延期するのは難しいんですか?」
ルルリ「来年のほうがひどいわよ。やるなら今年」
ルルリ「私は別に中止してもいいと思うけど」
ルルリ「政府に渡航禁止を飲ませる交渉材料として」
ルルリ「国内経済と五輪開催を持っていったわけよ」
ラクリ「その結果が今回の緊急事態宣言ですか」
ルルリ「2020年2月12日」
ルルリ「元の世界より2か月早く宣言が打てたわ」
ルルリ「内容も渡航禁止に絞って影響を最小限にした」
ルルリ「選手と関係者は入れない訳にはいかないから」
ルルリ「セリカには夏まで成田に張り付いて貰うけど」
ラクリ「よく政治家を説得出来ましたね」
ルルリ「伝説のお嬢様は伊達じゃないのよ」
ルルリ「中国の春節は1月30日で終わり」
ルルリ「ダイヤモンド・プリンセスの入港は2月3日」
ルルリ「2月7日時点で国内の感染は16例」
ラクリ「そうでしたね」
ルルリ「感染拡大が迫っている危機感が伝わって」
ルルリ「《握手検査》の実績づくりが出来て」
ルルリ「最高機密の《風邪薬》を投与できるチャンス」
ラクリ「それで三剣製薬が信用を勝ち取ったと」
ルルリ「そういうことね」
ルルリ「空港の近くに延べ8千室のホテルも建てた」
ルルリ「新薬研究のためのスパコンも用意した」
ルルリ「あとは科学が魔法に追いつくのを待つだけよ」
ラクリ「万能の《風邪薬》は作れないと思いますけど」
ルルリ「ワクチンなら1年で作れるわ」
ルルリ「2年あれば国民の7割に投与出来るはず」
ルルリ「変異株も根気よく対応していくしか無いのよ」
ラクリ「《風邪薬》の再現は狙わないんですね」
ルルリ「あれは三剣家でも超特別な魔法みたい」
ルルリ「ミリアにしか使えないし」
ルルリ「消費MPが高いから1日10本しか作れない」
ルルリ「クラスターを特定できないと役に立たないの」
ラクリ「感染を1日10人以下に抑えないといけない」
ルルリ「5年分の作り置きはあるんだけどね」
ルルリ「向こう2年間で枯渇しないことを祈るばかり」
ラクリ「それは凄い。ミリアは人類の救世主ですね」
ルルリ「残念ながら全世界までは手が回らないし」
ルルリ「量産化出来ないものは公に出来ないわ」
ルルリ「だからエナジードリンクに混ぜて出してる」
ラクリ「それで清涼飲料水に手を出してたんですね」
ルルリ「魔法の小瓶と同じ容器に詰めてる商品ね」
ルルリ「プラセボはただのカフェインとアルギニン」
ラクリ「じゃあ、《風邪薬》は無償提供なんですか」
ルルリ「そうよ。コビド対策はぜんぶ慈善事業だわね」
ラクリ「元の世界ではコビドで数百万人亡くなった」
ルルリ「新型ウィルスと呼んでたら最新型が出たり」
ルルリ「後ろに年数の数字がついたり」
ルルリ「地名をつけたり、それを禁止にしたり」
ルルリ「暖房機メーカーが可哀想なことになったり」
ルルリ「まあ、総じてコビドと呼んでいたわ」
ある日、セリカが突然、保有株をすべて売却し、
三剣製薬はストップ安になり国を騒がせる。
創業者一族として無責任だと大批判を浴びる中、記者会見が開かれ、
セリカは、「
国債で三剣製薬の株を買うか
年金で三剣製薬の株を買うか
アメリカのワクチンを買うか
それが日本の選択だ」と迫る。
問題を投資から医療利権の話に見事すり替えたセリカは、
売りぬけて得た資金を次の分野に投じるのであった。
日本政府は国内企業の新薬承認手続きを不当に遅らせる事実は無いと発表し、
三剣製薬を含む数社の新薬を承認。
株価がある程度回復し一件落着するも、三剣製薬の上層部には疎まれ、
社内では「セリカ」はNGワードとして扱われているらしい。
ルルリ「私よりずっと面白いわね、セリカママ」