お泊り会(没)

2020-08-30

CONFIDENTIAL
Suteki Co. Ltd.

全然ふわふわした雰囲気じゃないところが目下の悩みどころ。

【外泊許可】
(枢木小学校・教室)
タケシ「ウチはOKだって」
ミリア「わたしも大丈夫」
ルルリ「もしもしジップ、外泊許可証を頂戴」
ルルリ「葉月一織の祖母宅」
タケシ「ルルリ、大丈夫なのかよ」
ルルリ「すぐに届くわ」
(教室の窓から書類が放り込まれる)
イオリ「どういう仕組み?」
(ルルリ、ミリアにスマホを渡す)
ルルリ「お願い」
ミリア「撮りますよー、ハイ、ルルリ」
(スマホのカメラ音)
ルルリ「送信」
ルルリ「ジップは、親権に関する手続きを迅速に処理してくれるのよ」
ルルリ「報酬は写真一枚」
タケシ「いいなー」
イオリ「フクザツです」
ルルリ「返信が来た」
(ルルリ、スマホを見せる。仮面の男が親指を立てて写っている)
ルルリ「これがジップよ」
イオリ「怪しいですね」
タケシ「なんでマスクしてるんだ」
ルルリ「趣味、かしらね」
タケシ「これアタシも頼めるの?」
ルルリ「私専用だと思うわ」
タケシ「三剣家って凄いんだなー」
ミリア「うちはあんまり関係ないと思う」

【おばあちゃんち】
(南部・住宅街)
(ミリアは金髪のウィッグをつけている)
(ルルリはロリィタを着ないでツインテールにしてる)
ミリア「おじゃましまーす」
タケシ「ましまーす」
ルルリ「まーす」
葉月婆「おやまあ、外国の子かい?」
イオリ「金髪風の子はミリアさん」
イオリ「外国人のような名前の在日日系人とのハーフです」
ミリア「日本はとてもいい国ですネー」
葉月婆「日本語、上手ねえ」
ミリア「アリガトゴザイマース」
ミリア「これ、ツマラナイものデース」
葉月婆「ありがとうねえ」
ルルリ「また変な味の饅頭じゃないでしょうね」
ミリア「新発売の、白い小犬クッキーです」
ルルリ「面白くないって怒られるわよ・・・」
葉月婆「あなたはどこかで見たような」
タケシ「気のせいだよ! こいつテスト30点だし」
ルルリ「ぐぬぬ」
タケシ「イオリ、さっそく夕飯の支度しようぜ!」
イオリ「うん。台所使っていい?」
葉月婆「包丁と火には気をつけるんだよ」
(南部・ダイニングキッチン)
タケシ「何とか誤魔化せたかな」
ルルリ「テストの得点って言う必要ある?」
イオリ「お婆ちゃん、勘がいいんですよ」
ミリア「ドキドキした」
イオリ「嘘はついてないですよ」
ミリア「わたしも言ってない」
ルルリ「よく考えると破綻してる気がするけど」
タケシ「ミリアさんは外人っぽかったぜ」
ミリア「出来てたかな?」
ルルリ『ハーフなら外国人ぶる必要無いのでは・・・』
タケシ「料理作れる人ー」
ミリア「やったことない」
ルルリ「包丁以外ならレシピがあれば何とかなるわ」
イオリ「私もほとんど無いです」
タケシ「じゃあアタシは切る係」
タケシ「ルルリはレシピ調べて段取りして」
タケシ「二人は皮むきとコンロ見張る」

【カレー】
ミリア「いただきまーす」
タケシ「だきまーす」
ルルリ「まーす」
イオリ「いただきます」
葉月婆「いただきます」
タケシ「ちょっとからいかな」
ルルリ「中辛よ」
イオリ「うちは甘口ですね」
ミリア「うちのカレーとは同じくらいかな」
ルルリ「こうやって人は大人の味を知るのよ」
タケシ「アタシはまだ子供でいいかなー」
ミリア「タケシ料理上手だった」
イオリ「手慣れてましたね」
タケシ「ウチは母ちゃんと交代で料理当番だからねー」
(暗転、復帰)
葉月婆「ご馳走になったから、後片付けはやっておきますよ」
タケシ「アタシも手伝います」
タケシ「5人もいらないから、みんなは休んでて」

【須堂ルルリ】
(南部・寝室)
タケシ「ルルリの話を聞かせてくれよ」
ルルリ「このまま遊んで寝ちゃうパターンだと思ってたわ」
イオリ「気になります」
ルルリ「そんなに面白い話じゃないと思うけど・・・」
(暗転、復帰)
ルルリ「うちのパパは入り婿だったの」
ルルリ「須堂 実(すどう・みのる)」
ルルリ「ママは、天導 あやめ(てんどう・-)ね」
ルルリ「二人が結婚して、パパが天導実になった」
タケシ「普通とは逆なんだね」
ミリア「うちも入り婿かも」
イオリ「うちは嫁入りだと思います」
ルルリ「その頃、天才養成システムというのが話題になってて」
ルルリ「パパは貯金を全部使って、それを娘に買い与えたの」
イオリ「娘はルルリさん」
ルルリ「そう」
ルルリ「それでも毎月の維持費が足りなくて」
ルルリ「天導家はとうとう怒って、借金だらけのパパを追放した」
タケシ「離婚しちゃったのか」
ルルリ「ええ」
ルルリ「それでもパパはラクリモサの維持を続けてくれた」
ルルリ「私は天才に適合していたの」
ルルリ「百人に一人くらいしか適合出来ないものなのよ」
タケシ「ルルリは選ばれた天才だったんだな」
ルルリ「でもママはずっと反対してた」
ルルリ「妹が産まれてもパパは私ばかりを見てた」
ルルリ「そんな時に、ミリアと出会ったのよ」
ミリア「出会った」
ルルリ「でも、ママは南部の価値観が強い人だった」

【三剣の子】
(回想・2014年秋)
ルルリ「私、ミリアともっと遊びたい」
あやめ「許しません」
ルルリ「許されなくても勝手に遊ぶわ」
あやめ「外出は禁止します」
ルルリ「それは虐待にならないかしら?」
あやめ「三剣の子と遊ばないって約束して」
ルルリ「しません」
あやめ「それじゃあ外出は許可できない」
ルルリ「じゃあ虐待ね。児童相談所に通報するわ」
あやめ「生意気な」
ルルリ「どうぞ。気が済むまで殴って頂戴」
あやめ「どうしてそんなことを言うの」
ルルリ「家庭内暴力を受ければ有利になるもの」
タケシ「ぶん殴ってやる!」
ルルリ「回想に入ってこないで!」
(南部・寝室)
ルルリ「しかもなんでママ側なのよ」
タケシ「こんな生意気な5歳児がいるか!」
ルルリ「ここにいるわよ」
タケシ「母ちゃんに逆らうとかウチじゃありえないよ」
ルルリ「私は納得出来ない言いつけで自分を捨てたりしないわ」
ルルリ「ここが私にとって戦うべきポイントだったのよ」
イオリ「それで、戦いはどうなったんですか?」
ルルリ「昔話に戻るわね」
(回想・2015年)
ルルリ「私はパパについていくわ」
あやめ「パパは借金だらけだから、ご飯も食べさせて貰えるかわからない」
ルルリ「私のためにしてくれた事だから、受け入れるわ」
あやめ「ルルリ、ママは本当にあなたのためを思って言っているのよ」
あやめ「無理して天才にならなくていいの」
あやめ「健康で長生きして、幸せになってくれればいいのよ」
ルルリ「それはわかるし伝わってるけど」
ルルリ「私は自分の幸せを自分で決めないと納得できないのよ・・・」
あやめ「パパは天才にこだわり過ぎて、おかしくなっていると思う」
あやめ「ルルリに対する執着が異常すぎると思わない?」
ルルリ「思う」
あやめ「お人形さんみたいな洋服も普通じゃないし」
あやめ「性的虐待が起きてもおかしくない」
ルルリ「お洋服に罪は無いわよ」
ルルリ「ママがパパの悪口を言うのは悲しい」
あやめ「こはくもお姉ちゃんのことが好きなのよ」
ルルリ「それもわかる」
ルルリ「でも私はミリアのことが一番好きなの」
ルルリ「それだけ許してくれれば、あとは我慢できたのよ」
あやめ「三剣の家に遊びに行くことを許せばいいの?」
ルルリ「私はミリアの家に泊まりたい」
ルルリ「できるだけずっと一緒にいたいの」
あやめ「それじゃあ、家を出ていくのと同じじゃない」
ルルリ「天導ルルリとしての戸籍は残るわよ」
あやめ「天導家は平等と平和のために資本家と戦っているの」
ルルリ「それなら、私とは別れたほうが、ママのためにもなると思うわ」
あやめ「別にルルリに三剣と戦うことを押し付けるつもりは無くて」
ルルリ「天導家にいる限り、いつか戦わされてしまうのよ」
あやめ「そうなったらママがルルリを守るから」
ルルリ「ママには無理だよ」
ルルリ「私も、ママの価値観を邪魔したくないの」
ルルリ「どうぞ好きなだけ資本家のせいにして生きていけばいいわ」
ルルリ「そうすることでしか自分たちの心を保てないのだから」
あやめ「資本家が富を独占して、多くの人が貧困に苦しんでいることは事実」
ルルリ「それはそうかもしれないわね」
あやめ「弱者から奪った幸せは、いつか必ず弱者によって取り返される」
ルルリ「それでもいいの」
ルルリ「そうなるというなら、私はミリアと一緒に地獄に落ちる」

【親権と借金】
ミリア「るーるりぃ・・・」
(ミリア、座ってるルルリに後ろから抱き着いて髪をなでる)
イオリ「大恋愛、ですね」
タケシ「アタシはまだ恋愛とかわかんないけど」
タケシ「カッコイイと思う」
ルルリ「ありがとう」
タケシ「でもやっぱりママがかわいそうだな」
イオリ「言ってることは正論だと思います」
ルルリ「そんなことないのよ」
ルルリ「三剣家は弱者を苦しめて富を独占するような価値観ではないの」
ルルリ「という議論をここでしても仕方ないわね」
ミリア「わたしは気になる」
イオリ「私は先に須堂さんの話が聞きたいです」
タケシ「そうだな。ママの情報が欲しい」
ルルリ「ミリアのお話は後で大丈夫かしら」
ミリア「うん」
ルルリ「私はその後、パパと一緒に狭いアパートに引っ越したの」
ルルリ「でも、私はほとんどアパートには居なかった」
ルルリ「借金取りが来るし」
ルルリ「パパのスキンシップも過剰だったし」
ルルリ「ミリアとも会いたかったし」
ルルリ「ラクリモサも預かって貰ってたから、三剣家に入り浸ってた」
ルルリ「ラクリモサは、天才教育をする部屋みたいなものね」
ルルリ「たとえるならピアノの防音室みたいな感じかしら」
ルルリ「バーチャルリアリティーで、部屋自体が別世界になるのよ」
タケシ「すげーな! 今度見せてくれよ」
ルルリ「とっても面白いわよ」
ルルリ「親権の話に戻るわね」
ルルリ「離婚すると、パパとママのどっちについていくかを決めるんだけど」
ルルリ「子供が好きなほうを選ぶことは出来ないのよ」
イオリ「じゃあ、ママが選ばれることも?」
ルルリ「選ぶ条件は、客観的に子供を育てることが出来そうかどうか」
ルルリ「片方の親と同居していたら、そっちが有利になったり」
ルルリ「片方から虐待を受けていたら、そっちは選ばれなかったり」
ルルリ「ママとは別居したけど、虐待は受けなかった」
ルルリ「パパとは同居してたけど、形だけだったし、パパには借金があった」
ルルリ「日本では親権獲得は圧倒的に母親が有利になっていて」
ルルリ「パパはちょっと不利だったの」
ルルリ「それで、私は三剣家に多額の借金をしたのよ」
ルルリ「パパの借金の肩代わりと当面の生活費」
ルルリ「ラクリモサのローン残債と維持費」
ルルリ「それと、大学の費用も全額借りたわね」
ルルリ「人工知能の計算にはお金がかかるから、今でも借金は増え続けてるはず」
ルルリ「さらに、パパが信用を得るために、三剣社員としての働き口まで用意して貰った」
ルルリ「私にとっては一生の御恩だわ」
タケシ「ルルリにとっては、三剣は弱者を救う正義の金持ちだったんだな」
イオリ「でも、あくまで借金なんですね」
ルルリ「そうよ。貰ってしまったら逆に気持ちがつぶれてしまいそうだもの」
ミリア「あげていいのになあ」
ルルリ「そうして、パパは無事に親権を獲得」
ルルリ「私は天導の戸籍から抜けて、須堂ルルリになったのよ」

【結婚の意味】
タケシ「その場合、ママとは赤の他人になっちゃうのか?」
ルルリ「親子のままよ」
ルルリ「今でも仲いい・・・良かったと思うし」
ルルリ「私が天導家の遺産を相続出来ないとか」
ルルリ「ママに監護権が無いくらいだわ」
イオリ「監護権って?」
ルルリ「生活に直接関係するのは」
ルルリ「住むところを指定する権利」
ルルリ「しつけをする権利」
ルルリ「働くことを許可する権利」
ルルリ「この3つね」
ミリア「ルルリはうちに住んで、三剣電機を手伝ってるんだよ」
タケシ「しつけもして貰いなよ」
ルルリ「枢里は生活の管理も割としてるのよ」
ミリア「買い食いしにくいね」
ルルリ「してるけどね」
イオリ「結婚は、お母さんに認められなくても出来るんですか?」
ルルリ「未成年者の婚姻には父母の同意が必要なのだけど」
ルルリ「どちらか片方だけで大丈夫なんだそうよ」
イオリ「じゃあ、法的には問題ないんですね」
ルルリ「法的には16歳にならないと結婚出来ないんだけどね」
タケシ「そもそもなんで結婚式したんだ?」
ミリア「したかったから?」
ルルリ「結婚式をしてはいけないという法律は無いわ」
タケシ「でも、わざわざやるからには意味があったんだろ」
ミリア「うん」
ミリア「三剣家は、ルルリを信じるって決めたの」
ミリア「うまく言えない」
イオリ「信じるか、信じないか・・・」
タケシ「ルルリが三剣家に近づくスパイかも知れなかった、とか」
ルルリ「天導家のか」
タケシ「お嬢様を夢中にさせて三剣家を内部から倒そうとしたのかも」
ミリア「そんなことない」
ルルリ「たしかに、天導家の人間ならやらないほうが不自然なくらいね」
タケシ「天導家を抜けたのも、三剣家を油断させるため・・・」
ルルリ「それは無いわ、と言いたいけど」
ルルリ「もしそうなら、スパイとしては一流ね、私」
ルルリ「でも、全然そういう話じゃないのよ」
ルルリ「だいいち、三剣家を倒しても私には何のメリットも無いわ」
イオリ「南部の人たちは称賛しそうですけど」
ルルリ「うげー」
タケシ「物凄く嫌な顔したな」
ルルリ「心底気持ち悪いもの」
ルルリ「それならまだ、三剣家の財産目当てって言われた方が納得がいくわね」
タケシ「実際に大金を手に入れてるしな」
イオリ「財産を手に入れてみんなに配るとか」
ルルリ「なんで配るのよ」
イオリ「そうすればみんなが平等になるからです」
ルルリ「私は弱者ぶって利権を要求するだけの人種を最も軽蔑するわ」
ミリア「でも、かわいそうな人は助けてあげたい」
ルルリ「可哀想な境遇を嘆く元気を、生産的なことに回せばいいのよ」
イオリ「生産が出来ない人も沢山いると思います」
ルルリ「何も出来ない人は質素に暮らせばいいんだわ」
タケシ「なんか、ルルリのほうが三剣家のイメージに近いよな」
イオリ「アリアさんは優しいですもんね」
ルルリ「私の性格が悪いだけで、三剣家の人はみんな優しいのよ」
タケシ「でも、三剣家はルルリを信じるんだろ」
ルルリ「性格のことは関係ないと思うけど・・・」
ミリア「わたしよりルルリのほうが優しいと思う」
ミリア「ルルリの優しさは、難しすぎて伝わりにくいんだよ」
ミリア「だから、ちゃんと伝わったよ、って言いたかったの」
ミリア「それが、わたしたちが結婚式に込めた想いです」

【結論】
タケシ「眠くなってきちゃった」
ルルリ「えらく真面目に話しちゃったわね」
イオリ「難しいお話でした」
タケシ「結局どうすればいいかよくわかんねーしなー」
ミリア「ルルリのママに会って謝りたい」
ルルリ「火に油を注ぐことにならないかしら」
ミリア「それでも謝った方がいいと思う」
ルルリ「会えるように話してみるわ」


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Last-modified: 2021-02-21 (日) 08:25:20