男性の役割を撤廃する法律。
通称、中性法。
国連の女子差別撤廃条約から始まる女性優遇の法整備からは一線を画し、
男性が「男らしさ」を強制される苦痛を無くそうという、画期的な法律である。
令和5年4月1日公布、同年10月1日施行。
「男は仕事、女は家庭」という性役割を否定し、
「性別を問わず仕事も家庭も」という価値観を推進する。
男性の解雇自由化、女性との同一賃金化、
労災遺族年金と寡婦年金の男女平等化、
配偶者特別控除の廃止と扶養控除の拡充などが盛り込まれている。
「彼女欲しいなあ」
僕は今月完結の恋愛漫画を読み終えると、いつもの感想を呟いた。
恋愛モノはたまらない。なにせ尊い。尊すぎる。
乾いた日常に潤いを与えてくれる。
性別は何でも良かった。
男性向けや少女漫画だけではなく、BLや百合、動物や無機物モノも読む。
現実には、僕は男性で、恋愛対象は女性なのだけど。
「彼女欲しいなあ」
余韻を噛みしめるように繰り返す。
この感想は、作品に対する純粋なリスペクトである。
漫画のような彼女が現実に居ないことはさすがにわかってるし、
この歳になって恋人を探すことは恥ずかしいと感じる。
2024年3月の終わりに、僕は34歳になった。
「そろそろ身を固めたらどうだ」などと言われたのも、20代の終わりまで。
当時、不快感を露わにしたせいもあるだろうけど、
30を過ぎてからは何も言われなくなった。姉以外には。
「あんた、そろそろギリギリじゃないの?」
姉は容赦ない。
「何の話?」
僕はとぼけて見せたが、姉には見透かされている。
「結婚よ」
「子供が欲しいならギリギリだろうね」
「欲しくないの? 子供は可愛いよ」
欲しい。すごく欲しい。
姉は20歳で結婚し、21歳で女の子を産んだ。僕の姪にあたる。
姪は、姉から生まれたと思えないほど、礼儀正しく、心根が良くて、
身内びいきを抜きにしても、とびっきり可愛い子だと思う。
そんな姪は、会うたびに僕の隠れた結婚願望を刺激してくるのだった。
「まあ、いい人がいて、機会があればね」
僕はつとめて平静を装った。
まあ、発言自体は正直な気持ちだ。
相手がいないと恋愛は成り立たない。
相手がいても、相思相愛になれるかどうかにかかっている。
「ユースケって、女の人と出会うことあるの?」
ユースケは僕の名前だ。漢字で書くと勇介。
「いや、あんま無いけど」
「つまり、結婚する気は無いんだ?」
「彼女は欲しい」
「35の恋愛は、結婚前提でしょ」
それはそうかも知れない。
男性は歳をとっても子供を作れるけど、女性はそうでもない。
と思ったが、男が言うと差別発言になりそうなので黙ることにした。
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