「お嬢様世界」冒頭案。
ルルリ主人公は書きやすいし雰囲気出しやすい。

「お嬢様世界」はサウンドノベルでいい気がする。
記憶を失ったルルリが主人公。

髪が無い。青くて短いウィッグをつけている。
不思議な体験に慣れているような気がする。
起きてすぐ懐中時計を見た。
みんななぜか私に優しい。
記憶は取り戻さなくてもいいらしい。
別に大事な事を思い出そうとして頭が痛くなったりすることもない。

ミリア お嬢様。この街を治めているらしい。私のパートナー。可愛い。
ルッカ 私の身代わりらしい。親切な人。人じゃないらしい。
ラッカ 今のお嬢様らしい。変な子。
セリカ ミリアのお母さん。私の資産管理をしてる人。
ジップ 私のお父さん。私のストーカーをするのが仕事らしい。

コード

 私の頭の中には何も無かった。
 まるで・・・のような。
 たとえすら思い浮かばない。
 それなのに私は言語で思考をしている。これは日本語だ。
 私は推定日本人。日本というのは島国で・・・。

 ここは寝室だろう。やけに広いベッド。他の家具は少ない。
 女性の部屋だと思う。色が全体的にピンク。花柄のカーテンは閉められている。
 本棚。女の子のぬいぐるみが沢山置かれている。絵本が多い。何冊かビジネス書もある。
 机の上には閉じたノートパソコン。マウスが繋がっている。
 大きな白い扉は横開きのようだ。クローゼットなのだろう。
 一見、子供部屋に見えるが、部屋主は既に成人しているのかも知れない。
 あるいは、自分の部屋なのかも知れないが。

 私は女性だ。これは念のため股間を確認した。胸は残念ながら薄いようだ。
 首に下げられた何かが胸に当たっている。開く。懐中時計とデジタル盤があった。
 時計の針は10時過ぎを示している。カーテンの隙間から漏れる光を見るに、今は朝なのだろう。
 デジタル盤には文字が表示されていた。

 三剣世界 2021年04月07日10時07分
 スドウ ルルリ 11歳
 ノートパソコンを静脈認証せよ

 これは何だろう。
 静脈認証は、指紋認証をより高度にしたものだ。指の写真を撮られても偽造できないし、何かに残った指紋を使われる恐れも無い。
 スドウ ルルリは恐らく人名だ。私の名前なのだろうか。だとすれば私は11歳ということになる。背はどのくらいなのか。
 頭を触ると、髪が動く感触がした。付け根が留めてある。外してみると、地毛は五分刈りのようだ。恐らく五分どころか数ミリしかない。生えているのだから病気などではなく切ったということだ。何故?
 青いショートのウィッグをかぶり直し、スタンドミラーに自分を映す。確かに女の子のようだ。見た目は悪くない。
 私は仮名スドウ ルルリで、ここは仮に私の部屋だ。自分の部屋なら、物色してもいいだろう。
 ノートパソコンを開く。ユーザー名は人名では無さそうだ。パスワードはわからない。めぼしい箇所に指で触れてみたが認証される気配は無い。

 クローゼットを開く。中には年相応の洋服。バッグは幼いが、後は無難だ。お嬢様風。
 しかし、奥にはフリルだらけのドレスがあった。親の趣味なのだろうか。小学校に着て行けるものではない。
 私が今着ているのは動物のパジャマだ。中はシャツとショーツだけ。
 私は誰もいないこの部屋から外に出なければならない。気に入った服を一着選び、収納ケースから下着と靴下を取り出す。
 広げた下着によって、私の仮説は否定された。アリアと書かれている。
 なるほど。私は履いている下着を脱いで、同じ場所を確認した。ルルリと書かれてあった。
 着替えは中止だ。元の置かれ方を忘れてしまったが、なんとなく戻しておこう。
 と思った瞬間、扉が開いた。ピンク髪の女の子だ。
「あ、ごめん」
 言葉では謝っているが、出ていくそぶりは無い。
 そもそも何を謝られているのか定かではない。
 私は予定通り、自分の下着を履いて、着替えを元の位置に戻した。
「私、記憶喪失になっちゃったみたいです」
 確実な事実を伝えることにした。
「わかってる。大丈夫だよ」
 わかってる? 記憶喪失は突然起きたことでは無いのか。
 だとすれば、次に何を聞くべきか。
「私のノートパソコンを知りませんか?」
「たぶんルルリの部屋にあると思う」
 私の部屋があるのか。
 それならば、なぜ私はここで寝ていたのだろう。
「私の部屋はどこですか?」
「案内してあげる」
 女の子が手を差し出すので握る。
 さりげなく私は自分がルルリであることを再確認した。
 この子がアリアであることも念のため確認しておきたいが、なんと呼んでいたかがわからない。
「ルルリ、今、何色かな」
 私は何も答えなかった。質問の意味がわからない。下着の色なら目視されているし。
 部屋の外は廊下だった。正面にはガラスの入った扉。この部屋を挟むように両隣に部屋があるようだ。
 左の廊下を進むと右に折れている。そこを曲がり、左手の部屋の前で彼女は止まった。重そうな扉だ。
「ここでーす」
 印象通り、扉は重かった。ここだけが違うようだ。
 力を込めて開けると、中は奇妙な空間だった。扉が重い理由は、この部屋が防音室だからだ。
 ピアノのような大きい楽器があるわけでは無いので、ここはシアタールームなのだろう。一面に白い壁。隅に機械が見える。天井にも機械があるが、他に何もない。ソファーもテレビも無い。クローゼットも無かった。
「ノートパソコンは見当たりませんね」
 半開きの扉の外で待つ彼女に声をかける。返事はない。
 この部屋には寝室にあるべきものの多くが無い。せいぜい、無造作に置かれている掛け布団くらいだ。クッションと併用すれば眠れないことも無さそうだが、小さい女の子のする事ではない。
 私は部屋を出て、重い扉を閉めた。この部屋で落ち着いて過ごすイメージが沸かない。気分も重くなってきた。
「次は、どうしたい?」
 彼女は私にそう聞いた。私は黙って手を差し出した。
 握ってくれた。さっきと同じ、暖かい手だ。
「ベッドいこ」
 今来た道を戻り、私は最初の部屋の大きなベッドに戻ってきた。
 彼女が倒れ込むと、私もつられて倒れる格好になる。
「ぎゅーする?」
 私の不安が伝わったのだろうか。魅力的な提案のように感じた。
「ちょっとだけ・・・」

 何故、私ルルリは、アリアの部屋に寝ているのか。
 アリアは恐らく私と同世代だ。ビジネス書を読みノートパソコンを使いこなす、大人びた子なのだろう。
 このままアリアが部屋に来るのを待っていた方がいいのかも知れない。
 試しに下着の匂いを嗅いでみたが、新しい洗濯物の香りしかしない。
 顔にかぶると何か思い出せそうな気がする。

つまり、この部屋の主はアリアという人物である可能性が高い。それは懐中時計の表示と一致しない。

 

 さて、どうするべきか。
 

 恐らく、アリアはルルリと年齢が近い。私の身体とも近い。だから、私がアリアである可能性もまだ否定できない。
 むしろ、私がアリアで、目が覚めたら記憶喪失になっていた、と考えた方が自然だ。
 私がルルリだとすれば、アリアが自分のベッドにルルリを寝かせていることになる。私が侵入して勝手に寝たとか、見知らぬ他人の家に突如現れたとは考え難い。しかし、友達を寝かせるのも不自然だ。

 いや、まず、記憶喪失になること自体が不自然だった。アリアの家に遊びに来ていたルルリが突然発作を起こしたので寝かせた。それなら救急車呼ぶか。

 恐らく、この家は安全だ。生活感があるから人がいるはずで、私は警戒されていない。こちらも自然を装ったほうが得策だろう。
 ドアを開ける。向かいがリビングのようだ。両隣は個室なのだろう。廊下を進むかリビングに入るか。少し考えて、リビングにした。そのほうが自然な気がしたからだ。
 一人の女の子が壁際に座っていた。眠っているのだろうか。よく見ると車椅子で、異様に髪が長い。すべてが不自然だった。
「すみません、あの」
 声をかけると目が開き、あたりを見回す。
「おかえりなさい、ルルリ。記憶はどうですか?」
 この人は、私に記憶が無いことを知っているようだ。
「ええ、何も」
「やはり、そうでしたか」
 そう言うと、彼女は笑顔を作った。
「では改めて。あなたの状況を簡単に説明するわね。あなたの名前はルルリ。10歳の天才少女だったわ」
 懐中時計の情報と食い違いがある。
「でも、ルルリは病気で倒れて、1年間眠っていたの。原因は記憶の飽和で、それを取り除く手術が完了したってわけよ」
「じゃあ、私に記憶が無いのは、正常な状態なんですね」
 手術とやらはうまくいったようで、記憶を取り戻したいという願望も無ければ、何かを思い出そうとして頭が痛くなるような事も無い。その上、正常だと言う人まで現れてくれた。
「話によると、記憶はある程度の取捨選択が出来たらしいわ。あなたがすべてを忘れた事を悲しむ人は少なくないかも。でも、それはあなたの選択の結果なのよ」
 そう言われても、何かを選択した記憶は無い。事前にわかってたなら、記憶のあるうちに話し合ってくれればいいのに。
「私から言えることはあと一つだけ。私の名前はルッカ。ルルリが作ったヒューマノイドなの」
 なるほど。失礼ながら少し不気味な感じがしたのは、きわめて人間に近いロボットだからか。こんな物を作れるのだから、ルルリというのは天才少女だったのだろう。私は彼女を、ルッカを特異に感じている。
「そして、ルッカには10歳のルルリのほとんどの記憶が入力されたわ。私はルルリの複製なのよ」
「複製」
「こうなると、代理というより身代わりね。ルルリはもう元には戻らないのでしょうから」
「ごめんなさい」
「ルルリは素直に謝る人じゃなかったわよ」
 ロボットでも寂しそうにするんだな、と思った。しかし、当事者である私が他人事のようにルルリという人物を語るのもまた寂しい。答えあぐねたので話題を変えることにした。
「私のノートパソコンがどこにあるか知りませんか?」
「5台以上あるわ。何か特徴はわかるかしら?」
「静脈認証がついてる」
「珍しいわね。私の知っている中には該当は無いみたい。あるとしたらルルリの部屋かラボね」
「私の部屋?」
「ここを出て突き当たりを右に曲がって、最初の左手の部屋よ」
「行ってみます」
 廊下に戻り、言われた通りに進む。他と同じドアだ。特に名前や目印などは無い。思い切って重い扉を開ける。
 奇妙な部屋だった。白い壁の隅に機械が見える。音響設備だろうか。天井にも機械があるが、他に何もない。防音のようなのでシアタールームかも知れないが、ソファーもテレビも無い。

訂正。静脈認証は画像で簡単に破れるようになったっぽいので他のにする。
2005年に日立のノートパソコンに内蔵されていて、2019年にスマホのカメラで再現できるようになった。
画像で表現できるってことは、一度画像を取られれば破られるので、指紋認証よりはマシな程度。
画像と音声以外の生体認証としては、体臭認証が研究されているらしいが・・・。
血液認証なんかがそれっぽいだろうか。最初の一回だけとか。
ノートパソコンに内蔵させるのはさすがに無理がある。
記憶を失くしている私が「私であること」を私に証明する方法。
うーん、まあいいか。

 お目当てのノートパソコンも無さそうだし、クローゼットも無かった。部屋の位置に間違いは無いはずだが、この部屋には寝室にあるべきものの多くが無い。せいぜい、無造作に置かれている掛け布団くらいだ。クッションと併用すれば眠れないことも無さそうだが、小さい女の子のする事ではない。
 別の部屋を調べるのも気が咎めるし、誰かと鉢合わせると面倒だ。私はリビングに戻ってルッカに確認することにした。
「ルルリ! おはよう!」
 リビングに戻ると、別の女の子が嬉しそうに駆け寄ってきた。ピンクの髪で可愛い。
「おはよう」
 私は話を合わせることにした。
「わたしのこと、覚えてる?」
「アリアさん?」
 彼女の笑顔がこわばった。良くない回答だったようだ。
「ごめん、違った?」
「ルルリ、何か覚えてることある?」
 お互いに疑問符だらけで要領を得ない。
「私は何も覚えていません」
「本当に何も?」
「ええ」
「じゃあ、これも?」
 言うなり、彼女は唇を重ねてきた。正確に言うと、唇を挟まれた。情熱的なキスだ。私は拒絶せずに受け入れた。悪い気はしなかった。ちょっと長いけど。
「どう?」
「ありがとう」
 何も思い出せないので、はぐらかすことにした。
「ど、どういたしまして」
「良かったら、しばらく一緒にいて欲しいです」
「ずっと一緒にいるよ」
 この子は私に好意を抱いている。悪いようにはしないだろう。直接聞きづらくなってしまった名前や正体も、共に行動すればわかるかも知れない。それに、なんだか感情が戻ってきた。私はこの世界で生きていかなければならない。それは数年かも知れないが、一生かも知れないのだ。
「ずっとって、いつまでだろう」
 私の呟きに、彼女は答えた。
「死が二人を分かつことなく、永遠に」
 重い。私と彼女の関係は正常なのだろうか。ルルリが彼女を愛していたのなら、なぜ私は彼女のことを忘れているのか。もしも彼女が一方的にルルリを愛しているのだとしたら、今の状況は危険かも知れない。ルッカにアリアのことを聞いておかなかったことが悔やまれる。
「ねえ、アリア」
「なんですか」
 声をかけられた彼女の顔は、やはりこわばった。一か八か、親しみを込めて呼び捨てにしてみたが、間違いだったらしい。しかも、否定されていない。どう解釈したものか。
「なんでもないです」
 結論。この子は、難しい。下手な対応をすると大変なことになりかねない。私はルッカにルルリのことを学ぶべきだ。


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Last-modified: 2021-07-24 (土) 02:23:17